ご挨拶
中京大学人工知能高等研究所長を拝命して今年度が第二期最終年を迎えました。1986年に私は中京大学に着任しましたので、1991年に誕生しました研究所には長年に亘って一方ならずお世話になり育てて頂いてきました。ご恩に報いるためにも引き続き微力を注いでまいります。ご指導ご高配をよろしくお願い致します。
さて、大学に設置されている研究所という存在は、大学・大学院・学部の教育・研究現場に対して、学術社会・産業社会・市民社会との「よき接面」の役割を果たさなければならないと考えています。このよき接面では、とかく希薄になりがちな学内外の双方向人的交流および情報交流が促進されなければならず、また、個人プレーを頼りにしがちな産学連携研究を組織として促進してこれらを支える外部資金獲得、これらのための各種プロジェクト推進・運営に資することが強く期待され、これらが研究所のミッションです。このような意味から中京大学人工知能高等研究所(IASAI/Institute for Advanced Studies in Artificial Intelligence/ http://www.iasai.sist.chukyo-u.ac.jp/)の来歴をやや細部にも触れてご紹介し、少し先の近未来に向けての展望を申し上げ、一層のご理解とご協力をお願いしたいと思います。
1.<IASAIの小史と組織体について>
人工知能高等研究所(IASAI)は、1991年、情報科学部(現工学部、前情報理工学部)の付置研究所として発足しました。IASAIは、発足当初から情報科学・人工知能を基軸にして、多種・多様な分野に跨る広範な工学研究、自由な交流環境、若手育成、産学協同を推進することを旗印にして諸活動を重ねて参りました。
またIASAIの組織母体は約50名の学部教員であり、加えて外部からの産学機関からの所員約100名が名を連ねて、直近でのIASAI所員総勢が約137名(所員117名、準研究員20名/2016年度)にのぼっています。しかしこの現状は、情報科学と人工知能が繋がる広い工学分野が本研究所の所掌であることを考えると、一層の奮起と活気が期待されていると考えています。どのような施策が有効か、大きな課題であると思っています。
2.<研究教育支援の施設的役割について>
二種類の施設提供を実施しています。これらをもって、本学・学部における研究教育をIASAIが施設設備の面から支援するというものです。
(1) 共同研究の機会と施設の提供
IASAI発足当時は富士通研究所、DENSO中央研究所、名鉄コンピュータサービスなどのサテライトラボが設置され、研究者も滞在した産学連携研究の拠点が運営されていました。バブル経済崩壊後もこのサテライトラボの考えは継承され、現在も小規模ながら多数の共同研究室を設置し、その有料貸与制度が続いています。例えば、トヨタ自動車、アイシン、トヨタ車体、DENSO、東洋ゴム工業、富士ゼロックス、シャープ、三菱電機、YKK、富士重工業、IHI、パナソニック、カシオ、をはじめとして、近隣のみならず全国の企業からの利用が続き、これまでも実績を重ねてきています。引き続き、この共同研究施設を積極的に活用して頂けるようお願い致します。(http://www.iasai.sist.chukyo-u.ac.jp/inquiry.htm)
(2)MVRラボ、など実験研究施設運営
IASAI2階にMVRラボという実験研究施設を設置し運営を行っています。詳細は割愛しますが、レスキューロボット、サッカーロボット、介護ロボット、バリ取りロボット、愛知万博出展の似顔絵ロボットCOOPER、Amazonピッキングロボットなど、活発な開発がこのラボを拠点に実施され、特に画像研究、ビジョン研究の開発実験場となっています。XVIIIカメラ、高速度カメラ、3Dカメラなど大規模な画像センシング系の実験設備を備えていますので、是非ご訪問ください。
3.<IASAIでの産学・産学官連携研究の推進>
IASAIの最も主要な使命は、本学の教員と産業界との産学連携研究を推進、ないし支援することです。次のようなステップバイステップな仕組みを用意しています。
(1)所員登録、共同研究の開始
上記1.でも触れたようにIASAIの組織体は、所員登録と共同研究登録に始まります。所員登録は本学教員の推薦で比較的緩やかに実現でき、また連動して発展途上の研究テーマで共同研究を本学の教員との共同で開始することができます。上記2・で紹介した所内の諸施設(加えて、図書館など全学施設)を活用できます。(http://www.iasai.sist.chukyo-u.ac.jp/inquiry.htm)
(2)そして契約付き共同研究・委託研究へ
中京大学では共同研究、委託研究、奨学寄附金の産学連携研究を進める制度をもっています。IASAIの共同研究が進展した段階で、容易にこの制度に乗って本格的な産学連携研究に進むことができます。大学では研究支援課がこれらの要望に対応しております。ぜひ、ご利用ください。(http://www.chukyo-u.ac.jp/research_2/liaison/e2.html)
また、これらの産学連携研究推進を基盤にして、またはそれらを側面から支えるために、数多くの国庫助成によるプロジェクトの推進も行ってきました。それらは、IPA助成、NEDO助成、HRC助成、CREST助成、サポイン助成などの実績を積んできましたが、今後も引き続き推進していきますのでお声かけください。
4.<学内外機関とのコラボレーション>
IASAIは、学内外の諸機関と様々なコラボレーションを実施してきています。研究所の所掌・ミッションの幅と深みを図っていく上での大事な施策として、これらの試みを位置づけています。
学外の事例では、人工知能高等研究所と名古屋市科学館は、人工知能など情報科学分野の教育・研究活動を連携して実施するため相互協力協定を2013年に締結し、子供のための連繋科学教室を実施してきました。また今年度も新しい実施計画をたてています。
学内事例では、本学NEXT10行動計画の一環で「先端研究機構の創設と大学院改革」プロジェクトが2014年からスタートし、IASAIを含めた3研究所でこれを推進中です。さらに、同じ3研究所にて、近年の環境問題に関連して「竹炭プロジェクト」、「五輪資料プロジェクト」などの多様なコラボレーションが動き始めています。
このように、異分野交流、外部機関との提携、産学連携に注力する中から、次代の人工知能研究・情報科学研究の姿を眺望できないかと念願しています。
5.<学術社会、産業社会、市民社会への発信>
IASAIでは、1997年から、機関誌「IASAI News」を年2回のペースで発行して、内外に向けた情報発信を続けています。もちろん、公式HPも運営して外部に向けた情報発信に心掛けていますが、その中にもこの機関誌の情報が載っていますのでご覧下さい。また、IASAIパンフレット冊子体作成も進める予定です。(http://www.iasai.sist.chukyo-u.ac.jp/iasainews.htm)
また、IASAIは、公開講座「ソフトサイエンスシリーズ(旧人工知能シリーズ)」を企画・主催して、広く市民社会に向けての情報発信も、IASAI発足に先立つ1987年から、長年にわたって続けています。また、この公開講座は、名古屋市科学館とも共催し、上記4.の相互協力協定に厚みを持たせています。最近での事例では、トヨタ自動車林南八取締役、科学技術振興機構研究開発戦略センター吉川弘之センター長、西日本電信電話株式会社森下俊三相談役、久間和生内閣府議員、東大教授の坂村健氏、中島秀之氏の各氏をお迎えしました。これからもご注目ください。
6.<大学院、学部の支援・連繋>
最後に、IASAIと学部と研究科との接点の現状に触れておきます。2014年から毎年、大学院修士課程の修士論文中間発表会と院新入生歓迎会をIASAIが共催しました。平素でも研究室単位でIASAIに関わる院生学生は少なくありませんが、これを試金石として、大学院生・学部学生諸君の産業社会との交流や研究支援を組織的に強化できるか、大いに知恵を働かせていきたいと考えます。例えば、院生・学生による起業への助走を支援するインキュベーション研究室も設けて、新しい学生支援の地平を模索しています。
7.<むすび/『中京大学理工系四半世紀記念事業』とその先に>
この機会に、1991に生まれた人工知能高等研究所の来歴、近況と展望を申し上げました。実は、人工知能高等研究所は、2016年には満25歳を迎えたことになり、四半世紀の歴史を重ねてきたことになります。これを記念して、2017年2月17日、500名を越える参会者を迎えて記念式典、記念講演会を開催いたしました。右上のロゴは、その記念のしるしです。(http://www.iasai.sist.chukyo-u.ac.jp/25anniversary/)
大学も学部も、また研究所が親しくお付き合いを頂いている産業社会は時代を経てその構造も価値観も大いに変貌しつつあることは間違いありません。私どもは日常的課題に弛まず臨む覚悟ですが、この『中京大学理工系四半世紀記念』を節目にして来るべき四半世紀を展望してまいります。折しも、2016年はIASAIの母体である工学部の完成年度でもありましたし、また工学の旗色を強化した工学研究科が2017年度にスタートいたしました。人工知能高等研究所も率先して中京大学理工系のプレゼンスを高めて参る所存ですので、関係各位からのお知恵とご指導をお寄せいただきたくお願い申し上げて、わたくしからのご挨拶といたします。
2017年4月1日
人工知能高等研究所長 輿水大和